対象は、DeepSeek・Qwen・GLMのAPI選定、または公開重みの自己ホストを検討している開発者と技術責任者です。課題は、8月12日から17日の5日間で、DeepSeekがピーク帯で最大1100%超の値上げを発表し、アリババが未公開だった2.4兆パラメータの旗艦重みを出し、智譜が同一基盤の後学習だけでコーディング指標を約6倍に伸ばしたことです。結論は、3社の打ち手は違っても、争点は「安さ」から「価格支配権」へ移った、という一点です。以下では時系列、料金表、6ステップの請求試算、3つの論理、横断比較、未確認情報、FAQの順で再現します。

5日間で、中国の主要ラボが表面上は矛盾する3手を打ちました。DeepSeekは一部帯でAPIを最大1100%値上げし、アリババは同週に2.4兆パラメータの旗艦を初めて公開し、智譜はGLM-5.3を、前作とまったく同じ基盤のまま後学習だけで出荷しました。共通する信号は、価格競争から価格支配権の競争への転換です。

時系列:この2週間に何が起きたか

日付出来事
2026年7月16日Moonshot AIがKimi K3(2.8兆パラメータ)を公開。米側の安全保障上の関心を招いていました
8月2日–3日アリババがQwen3.8-Maxを予告し、ホストAPIとして公開
8月10日MetaがMuse Glimmer(300億、Apache 2.0)を公開し、旗艦Muse Spark 1.2の重み公開を予告
8月12日アリババがQwen3.8-2.4T-A95BをHugging Face / ModelScopeに公開。同日xAIがGrok 4.6を出荷
8月13日DeepSeek-V4-Proが正式版になり、8月17日からの値上げを告知。Googleは値下げしたGemini 3.7 Flashを出荷
8月14日智譜がGLM-5.3を出荷。基盤はGLM-5.2と同じ7430億パラメータ
8月17日 0:00(北京時間)DeepSeekの新料金が発効

さらに引いて見ると、7月30日にOpenAIは最安帯のGPT-5.6 Lunaを80%値下げし、8月6日–7日には無料ユーザーの既定モデルにしてテキスト対話を無制限にしました。中国勢が値上げと旗艦公開を進める同じ週に、米国勢は無料化と値下げを進めています。偶然ではなく、同じ価格戦争の両面です。当時のQwen3.8-Max仕様は Qwen3.8-Max公開メモ、V4-Flashの旧一律料金は DeepSeek V4 Flash解説、OpenAIの値下げは GPT-5.6 Luna / Terra / Sol で確認できます。

数字:何が変わったか

DeepSeekは北京時間8月17日0時(UTC 8月16日16:00)から時間帯課金に切り替えました。ピークは北京時間9–12時と14–18時(UTC 01:00–04:00と06:00–10:00)です。下表は公式発表を約7.15でドル換算した再構成です。請求は DeepSeek公式料金ページ で必ず確認してください。

課金項目(100万tokensあたり)旧料金オフピーク(新)ピーク(新)ピーク上昇
V4-Flash キャッシュヒット入力$0.003$0.007$0.014約400%
V4-Flash キャッシュミス入力$0.14$0.21$0.42200%
V4-Flash 出力$0.28$0.63$1.26350%
V4-Pro キャッシュヒット入力$0.0035$0.021$0.042約1,100%
V4-Pro キャッシュミス入力$0.42$0.63$1.26200%
V4-Pro 出力$0.84$1.89$3.78350%

見出しの「1100%」は、ピーク帯のキャッシュヒット入力だけに当てはまります。実請求を左右する出力は350%です。第三者の試算では、月約8400万tokens、大半がオフピーク、ヒット率約半分の重い負荷で、請求増は約1.8倍に収まります。

Qwen3.8-2.4T-A95B(Qwen3.8-Max公開重み)の仕様

項目内容
パラメータ総2.4兆、活性950億(MoE、専門家512、ルーティング10+共有1)
コンテキスト公開チェックポイントは26.2万tokens、約101万まで拡張可。ホストMaxは既定100万
公開リズム8月2日予告 → 8月3日API → 8月12日重み公開
国際API料金入力$2/M、出力$6/M
ライセンスApache 2.0ではなく、独自のQwen3.8-Max License
意味アリババがMax級旗艦を初めて公開。Qwen3.5/3.6/3.7 MaxはAPIのみでした

GLM-5.3とGLM-5.2:基盤は同じ、後学習だけ

ベンチマークGLM-5.2GLM-5.3変化
Terminal-Bench 3.04.6%28.3%+23.7
DeepSWE v1.146.2%66.9%+20.7
Agents' Last Exam(CLI)23.8%28.5%+4.7
CyberGym77.2%84.5%+7.3
AutomationBench26.2%48.2%+22.0

数値は智譜の自己測定です。第三者の再走はまだ公開されていません。Terminal-Bench 3.0ではGPT-5.6 Sol(34.6%)とClaude Fable 5(33.7%)に遅れます。公開重みの最前列であり、全面首位ではありません。

請求を再現する6手順

「1100%」は料金表の1セルです。ベンダーを切り替える前に、次の6手順で自社請求を再現してください。

  1. ピークを自社タイムゾーンに写す。北京時間9–12時と14–18時はUTC 01:00–04:00と06:00–10:00です。北米の営業時間はほぼオフピーク、西欧の午前は第2窓に重なります。
  2. 入力と出力を分ける。出力の350%が請求の本体になりやすいです。ヒット入力は12倍でも絶対額は小さいままです。
  3. キャッシュヒット率を見積もる。固定のシステムプロンプトとRAG接頭辞は上げます。毎回変わる長文とワンショットAgentはほぼミスです。
  4. 先月のtokensを新料金で再計算する。月8400万tokens、大半オフピーク、ヒット半分、という公開試算では約1.8倍です。
  5. 代替を同じ流量で試す。Qwen3.8-Max国際($2/$6)、GPT-5.6 Luna($0.20/$1.20)、Claude Opus 5(約$5/$25)です。
  6. ずらす、切り替える、自己ホストする。バッチはオフピークへ移せます。2.4Tをローカルで回すなら、共有ノートではなく専用ホストが必要です。

料金とライセンスは変わります。再掲や予算確定の前に一次情報を確認してください。

DeepSeek API Docs: Models & Pricing

Hugging Face: Qwen3.8-2.4T-A95B と LICENSE

Z.ai: GLM-5.3 技術投稿

South China Morning Post: Qwen3.8-Max の商用条項

3つの戦略を分解する

DeepSeek:一律安値から時間帯課金へ。これは戦略転換ではなく、計算資源の可視化です。「中国最安がついに利幅に屈した」と読むのは最短距離ですが、構造は逆です。需要が指数で伸び、GPU供給が追いつかなくなった時点で、ピークの希少性を料金表に出す必要がありました。公式文の「より柔軟なワークロードスケジューリングを促す」は、「ピークの計算資源が足りないので、負荷を自分でずらしてください」という意味です。

国際報道がほとんど触れていない点として、ピーク帯では公式APIがGMI CloudやNovitaなど一部再販より高くなっています。「公式が常に最安」という前提は、初めて崩れました。

アリババ:重み公開で生態系を取り、独自ライセンスで収益天井を守ります。2.4兆のチェックポイントを無料配布する一方、小規模Qwenで使っていたApache 2.0ではなく、独自ライセンスを付けました。直近12か月で5000万ドル超の「Model-as-a-Service」または「AI Work Assistant」事業は別途商用許諾が必要で、月間1億MAU超または月商2000万ドル超の製品はモデル名を目立つ位置に表示する必要があります。

論理は明確です。開発者の信頼、とくに海外の企業買い手の躊躇を下げるために重みを出し、推論事業を立てられるごく少数の大口には交渉権を残します。MetaのMuse Glimmer(制限なしのApache 2.0)とは、「オープン」の意味が違います。

米・EU・英・韓からのダウンロードを禁じる、という噂は誤りです。公開LICENSEに地理条項はありません。発表スレッドではなくLICENSEファイルを読む方が速い、という教訓でもあります。

GLM-5.3:新しい基盤はありません。後学習の規模が本体です。基盤はGLM-5.2と同じ7430億、再学習なし、Terminal-Bench 3.0は4.6%から28.3%へ約6倍です。事前学習の限界収益が鈍るなか、後学習の強化学習規模が独立した性能レバーになっています。千億級基盤を作り直すより敷居が低く、中規模ラボでもエージェント指標を詰められます。

横断比較:値上げ後もDeepSeekは最安の旗艦か

モデル入力(100万tokens)出力(100万tokens)重み公開
DeepSeek V4-Pro(ピーク)$1.26$3.78なし
DeepSeek V4-Pro(オフピーク)$0.63$1.89なし
Qwen3.8-Max(国際API)$2.00$6.00あり(独自ライセンス)
OpenAI GPT-5.6 Luna$0.20$1.20なし
Claude Opus 5(アリババ開示の倍率から推計)約$5.00約$25.00なし

短い答えは「いいえ」です。オフピークのV4-ProはまだClaude Opus 5より安いですが、最安ではなくなりました。Qwen3.8-Max国際料金とLunaは、少なくとも一軸でオフピークのDeepSeekを下回ります。「中国モデル=最安」は2025年から2026年初までは概ね正しく、今は安全な前提ではありません。

争点と未確認の細部

  • 「1100%」は正確でも、文脈なしでは誤解を招きます。ピーク帯のキャッシュヒット入力だけです。出力は350%です。媒体ごとに別の帯を全体像として引用しています。
  • Qwen3.8-Maxが自社製Zhenwu M890で動く、という報道は、アリババの技術文書や第三者ベンチで独立確認されていません。未検証として扱ってください。
  • GLM-5.3がCursorの重大脆弱性を見つけた、という話はVentureBeatと智譜側の開示です。技術詳細は未公開で、ベンダー発信・未監査です。
  • 中国商務部がAI/半導体の報復的輸出規制を準備している、という報道は公式発表ではなく、背景の推測です。

なぜ重要か:並行する二つの価格戦争

過去およそ1か月、中国の主要ラボは国内金融メディアが「週3更新」と呼ぶ密度で出荷しています。DeepSeek、アリババ、智譜に加え、7月16日のKimi K3(2.8兆)とMiniMax H3が先行しました。中国語圏の論調は「公開重みが世界のAI価格を再設定している」と強く、英語圏の製品ニュースより主張的です。

米国勢は消費層で逆を走っています。OpenAIは7月30日に最安帯を80%下げ、1週間後に無料・無制限にしました。Googleは8月13日、3週間前の前作の半額でコーディング向けモデルを出しました。中国勢は旗艦を公開しつつ頂点を段階値上げし、米国勢は消費端を安くしています。どちらも本物の戦略で、最適化している漏斗の位置が違います。

地政学の層も慎重に書く必要があります。7月のKimi K3公開はすでに米側の審査関心を呼び、アリババがこの窓で2.4兆を出したことを「規制が締まる前に国際的な技術対等の物語を固定する動き」と読む分析があります。確定事実ではなく、英語圏の製品ニュースだけでは見えにくい文脈です。

FAQ

値上げ後もDeepSeekはGPT-5.6やClaudeより安いですか。

オフピークはまだClaude Opus 5より安いです。ただし全体の最安ではなく、Luna($0.20/$1.20)とQwen3.8-Max国際($2/$6)が少なくとも一軸で下回ります。旗艦級としてはまだ相対的に安いです。

Qwen3.8-Maxの公開重みを商用製品で無料利用できますか。

個人プロジェクトと社内利用は基本的に影響しません。直近12か月で5000万ドル超の「Model-as-a-Service」または「AI Work Assistant」事業だけ、別途商用許諾が必要です。月間1億MAU超または月商2000万ドル超はモデル名表示も必要です。

米・EU・英の利用者はQwen3.8-Maxをダウンロードできませんか。

できません、という噂は誤りです。公開ライセンスに地理制限はありません。制限は売上規模に紐づき、所在地には紐づきません。

GLM-5.3とGLM-5.2の実体差は何ですか。

基盤は同じ7430億です。Terminal-Bench 3.0の約6倍は、後学習で強化学習環境を拡大した成果です。基盤の再学習はありません。

Metaは旗艦も本当に公開しますか。

まだです。Muse Glimmerは300億の蒸留モデルです。Zuckerberg氏は閉源のMuse Spark 1.2を「まもなく」公開すると述べていますが、本稿時点では意図であり事実ではありません。

時間帯料金、独自ライセンス、2.4兆のチェックポイントが同じ週に揃うと、作業は変わります。バッチをずらし、LICENSE原文を読み、いつでも初期化できる隔離環境でエージェント指標を再現する必要があります。共有ノートやガードレール付きAPIでは足りないことが多いです。整機独占のApple Silicon物理ホストが必要なら、VMSPINの日次課金クラウドMac miniは、MDM自動交付とSSH・VNCの二経路で、公開重み評価とエージェント砂箱に向きます。Mac mini M4レンタル解説料金ページも合わせてご覧ください。